弁護士と依頼人の関係
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いわゆる「弁護士」というのは、正確には資格名ですが職業名でも有ります。その弁護士は、時には代理人と呼ばれたり、あるいは弁護人と呼ばれたりします。法律事務を依頼した弁護士は、貴方にとって代理人なのでしょうか、あるいは弁護人なのでしょうか?
そして、その違いはどこに有るのでしょうか?
代理人としての弁護士
民事事件における弁護士
弁護士に民事の法律行為を依頼する場合は、「委任契約」を締結します。委任契約は、当事者の片方が相手方に法律行為を委託するもので、この委託によって代理権が生じ本人に代わって法律行為を行うことができます。委任契約を締結し、訴訟に発展する場合には別途裁判用の委任状(訴訟委任状)を発行致しますが、この中には当事者の氏名及び代理権の範囲が記載されます。 このようにして、代理権を与えられた者が代理人です。代理人は民事訴訟においては、訴訟代理人と呼ばれ、さらに原告の代理人の場合は、原告訴訟代理人とよびます。しかし、訴状等の書面の場合は、正式名称の「原告訴訟代理人」と記載しますが、口頭弁論(所謂、市井でいうところの「裁判」)等では、もっぱら「原告代理人」と呼ばれます。
代理とは
代理とは、依頼者に代わって他の者が法律的効果を目的とした意思表示(契約等の法律行為)を行い、その効果を依頼者に帰属させる制度です。
つまり、委託を受けた第三者が、法律行為を行い結果責任は依頼した人が負います。ですから、代理人は信頼できる人でなければなりません。
代理権の発生原因
代理には、任意代理と法定代理が有りますが、法定代理は法律の規定により発生するものであり、弁護士に委託して発生するものでは無いので全ての説明を省略いたします。
代理権は、当事者の片方から代理人に代理権を授与するという「授権行為」によって発生致します。この、授権行為によって発生する代理権を「任意代理権」といい、弁護士との契約に基づく代理権は、この任意代理権です。
悪徳弁護士に引っ掛かると、この代理権を悪用されることも考えられます。例えば、事件が終結し代理権が消滅したのに代理権が有るように装う「代理権消滅後の法律行為」や代理権の範囲を超えて不動産を勝手に売却する等の「代理権愉悦行為」が有ります。
代理の要件
代理の効果が依頼した本人に帰属するためには、次の三つの要件を満たす必要が有ります。
1.依頼した本人のためにすることを示すこと。
代理人であることを表示して、依頼者のためにする行為であることを相手に知らせる必要が有ります。
代理人であることを表示しなかった場合は、その法律行為は代理人自身のために行ったものとみなされますが、弁護士に依頼した場合は、普通このような間違いは有り得ません。
2.代理人の法律行為が有効に存在すること。
代理人と相手方との間に法律行為(売買契約、和解契約等)が成立していることが必要になります。
3.代理行為が代理権の範囲内にあること。
例えば、所有権の返還を求める訴訟の代理を依頼したのに、所有権の返還後に転売する等の代理権を愉悦した行為は、代理権の範囲外ですので要件を満たしていません。
弁護人としての弁護士
刑事事件における弁護士
一方、刑事訴訟においては、被疑者(犯罪を犯したと疑われ捜査の対象になっている者)もしくは被告人(検察官により公訴を提起された者)に代わって訴訟活動及び弁護活動をおこなうもので弁護人とよばれます。なお、弁護人は、裁判所の許可を得ていない限り弁護士以外の者が弁護人となることは出来ません。
刑事訴訟における弁護人の活動は非常に重要で、法律知識も無く、拘束されている状態で自らの無実・主張を証明する手段を断たれた者にとって、弁護人たる弁護士は、被疑者・被告人の正当な利益を保護するための支援者・代弁者でも有ります。
なお、刑事訴訟法は全ての被疑者・被告人に対し弁護人を選任する権利が保障されています。
私選弁護人
被疑者・被告人またはそれらの親族等の関係者が選任した弁護人のことです。被疑者・被告人等が知人の弁護士や特定の分野に強い有名な弁護士を指名し、弁護活動を依頼する場合で、弁護人に支払うべき費用は、当該弁護士との契約により選任した者が負担することとなるため高額となることが多いです。
稀に、無実を信じる支援者団体の依頼や弁護士自身の信条により、低額やときには無報酬で弁護活動をする場合も有ります。全く無欲の支援から、売名行為、無実証明後の刑事補償や国家賠償金からの支払いを期待する行為かは不明ですが・・・
国選弁護人
被告人やその親族等が、経済的理由や諸々の事情で弁護人を選任することができない場合に、裁判所に対して国選弁護人の選任を請求することができます。
国(裁判所)が選任する弁護人である点を除けば、私選弁護人と職務および権限の内容に違いは有りません。
被疑者については、2006年4月に法改正がなされ、2006年10月から被疑者国選弁護の運用も開始されました。
付添人としての弁護士
少年事件において被疑者の段階、つまり、家庭裁判所に送致されるまでは、弁護士は弁護人として活動いたしますが、家庭裁判所に送致された後は「付添人」として、少年の更生を助ける立場で活動いたします。
付添人も弁護人と同じく、私選付添人と国選付添人がありますが、重大で無い事件の場合国選付添人を付けられない場合が有ります。