紛争解決の新しい方法である裁判外紛争解決手続(ADR)の活用

ADRの基本概念と背景

ADR(裁判外紛争解決手続)の定義と意義

裁判外紛争解決手続のイメージ画像ADR(Alternative Dispute Resolution)は行政や法律家の間では広く使われている言葉ですが、一般的には未だ馴染み薄く「裁判外紛争解決手続」といった方が分かり易いかもしれません。言葉が示す通り、裁判所を介さずに公正中立な第三者が当事者同士の話し合いを支援し、紛争解決を図る手続きのことをいいます。仲裁や調停、あっせんなどがその具体例であり、柔軟で迅速な解決策を提供できることが特徴です。最近では弁護士をはじめとする専門家が関与することで、より一層精度の高い紛争解決処理が可能となってきています。

 

ADRの起源と発展

ADRは、司法制度の混雑や裁判費用の高騰といった課題に対する一つの解決策として誕生しました。特にアメリカでは1960年代からその必要性が叫ばれ、1970年代に本格的に普及が始まりました。その後、日本でも2007年の「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(通称ADR法)の施行を契機に、公的ADR機関の他に、(財)交通事故紛争処理センター、(財)日本クレジットカウンセリング協会、(財)不動産適正取引推進機構、家電製品PLセンター等の他弁護士会にも仲裁センターや相談センターの名称で多くの民間ADR機関が整備され、「かいけつサポート」のような制度が広まっています。これにより、身近な紛争から専門性の高い問題まで幅広い分野での活用が進んでいます。

 

なぜADRが注目されるのか?裁判との違い

ADRが注目される理由の一つは、裁判に比べて迅速性と柔軟性に優れている点です。裁判の場合、判決は法律上の判断が重視されますが、ADRでは当事者の意向や事情を考慮した合意形成を目指します。また、ADRでは費用や時間の面で裁判よりも効率的であり、当事者間の対立を軽減し穏便に解決することが期待できます。弁護士がADRに関与することで、当事者双方にとって適切な助言や解決策の提示が可能になり、解決プロセス全体がより円滑に進むこともポイントです。

 

ADRに関連する主な法律と制度

日本においてADRに関連する制度の整備は、2007年に施行された「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」を中心に進められています。この法律では、ADR機関が一定の基準を満たすと法務大臣の認証を受けることができ、信頼性の高い紛争解決を担う機関として認められます。また、ADR法に加えて、民事調停法や特定調停に関する法制度も重要です。特定調停では借金問題の返済方法に関する合意など、具体的な分野における調停手続きの枠組みが提供されています。これらの法律は、それぞれの紛争の種類に適した解決の道筋を提示し、弁護士を含む専門家の支援と組み合わせることで実効性を高めています。

 

ADRの種類と利用シーン

仲裁、調停、斡旋の違い

ADR(裁判外紛争解決手続)の具体的な種類には、仲裁、調停、斡旋があります。それぞれの手続きには異なる特徴があります。仲裁は、第三者である仲裁人が裁判官のような役割を果たし、最終的な解決案を提示する手続きです。この結果は法的拘束力を持つため、裁判に代わる正式な紛争解決手段として活用されます。一方の調停は、中立的な第三者が当事者間の話し合いを助け、双方が納得できる解決策を導くプロセスです。調停は原則として法的強制力はありませんが、調停が成立した場合には調停調書が作成され拘束力が生じる他、金銭の支払い義務が記載されていれば債務名義にもなります。調停は司法型ADRの一つで、他に裁判上の和解、労働審判及び家事事件の審判前の和解等があります。。そして斡旋は、調停に似ていますが、斡旋人がもう少し積極的な役割を果たし、解決案を提案することもあります。これらの手続きは、柔軟性が高く、迅速な紛争処理を可能にするため、多くの事例で弁護士の支持があります。

 

民事トラブルでの活用事例

ADRは、金銭トラブル、交通事故、不動産トラブル、労働問題など、さまざまな民事上のトラブルで活用されています。例えば、金銭の貸し借りに関する争いや、マンション管理における近隣トラブルでは調停が頻繁に利用されます。また、労働問題では、労働基準法に基づく紛争を裁判で解決するよりも、より迅速かつ柔軟な解決が求められるため、労働審判を経ずに斡旋や調停が選ばれることもあります。弁護士の支援を受けながらADR手続きを利用することで、裁判にはないスピード感やコストの低減を実感できるのが大きなメリットです。

 

金融紛争や建築紛争での実績

金融紛争や建築紛争においても、ADRはその有効性が認められています。金融紛争では、銀行や投資会社との間の契約や投資トラブルが問題となることがありますが、ADRにより専門家の助言を交えた適切な解決策が提示されます。一方、建築紛争では施工延期、設計ミスや建築物件の瑕疵などのトラブルがテーマとなることが一般的です。これらの分野では、ときに高度な専門知識が求められるため、弁護士や専門家を交えた仲裁や調停が積極的に活用されています。裁判の場合、解決までに長い時間を要する場合もありますが、ADRは早期解決を図れるため、関係者すべてにとってメリットが大きいと言えます。

 

行政型ADRの役割と特色

行政型ADRは、公的機関が主体となり、中立的な立場から紛争解決を支援する手続きです。特徴として、費用が低額であること、また特定分野の紛争に特化した機関が設置されていることが挙げられます。たとえば、交通事故紛争処理センターは交通事故に特化した行政型ADR機関であり、被害者と加害者の間の賠償問題を解決するサポートを行っています。また、不動産分野においては、不動産鑑定士などが関与した調停を通じて、専門性の高い解決策を提供します。行政型ADRは裁判に代わる効率的な紛争処理の手段として、利用者からの期待が高まっています。その他に、人事院、特許庁、海難審判庁、国税不服審判所等非常に多くの機関があります。

 

次ページに続く