大川原化工機事件

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大川原化工機事件は、東京都に本社を置く中堅機械メーカー「大川原化工機」の社長らが不正輸出の容疑で逮捕・起訴され、後に全員無罪となった冤罪事件です。この事件の発端は、2020年に東京地検特捜部が、大川原化工機が外国為替及び外国貿易法(外為法)に違反し、核開発にも転用可能な噴霧乾燥機を無許可で中国へ輸出したとして、社長ら3人を逮捕・起訴したことにあります。検察は、これらの装置が大量破壊兵器関連物資に該当し、輸出に経済産業大臣の許可が必要だったにもかかわらず、それを怠ったと主張しました。

しかし、裁判の過程で検察の主張を支える証拠の信頼性に重大な疑問が生じます。まず問題となったのは、検察が外為法違反の核心として依拠した「経済産業省の内部文書」や「専門家の意見書」に矛盾があったことです。さらに決定的だったのは、捜査機関が輸出された装置についての性能評価を意図的にゆがめ、核開発への転用が現実的であるかのように見せかけていた点でした。具体的には、機械の能力や用途について正確な技術評価を無視し、「兵器利用が可能」とする不正確かつ恣意的な分析を証拠として提示していたのです。

また、企業側は輸出先や用途について透明性のある手続きをとっており、問題の装置自体も一般産業用途で広く使用されているものであることが判明しました。輸出時点での法令解釈に基づくと、そもそも許可対象に当たらない可能性が高く、企業側に違法性の認識はなかったと判断されました。結果的に、東京地裁は2023年に全被告に無罪を言い渡し、検察の主張した違法性や故意の立証ができなかったと明確に指摘しました。

なお、2023年6月30日に行われた証人尋問では、警視庁公安部の現職警部補が出廷し、大川原化工機事件の捜査に関して「まあ、捏造ですね」との発言をしました。この証言は、捜査の実態や経済産業省との打ち合わせ内容にまで及び、事件の捜査手法に対する疑問を呈するものでした。また、他の現職警察官も法廷で「立件する理由はなかった」と証言しており、捜査の正当性に対する内部からの批判が明らかになっています。

この事件は、技術的な専門性が問われる分野において、捜査当局が十分な知見を持たないまま、恣意的な判断で企業活動を犯罪と断定したことの危うさを露呈させました。また、証拠の扱いや解釈を検察側が都合よく操作していた疑いが強く、証拠偽造に等しい捜査手法が社会的批判を集める結果となりました。無罪判決は、日本の刑事司法における専門性と公正性の課題をあらためて浮き彫りにし、企業活動の自由と法の支配のバランスについても深い議論を呼び起こしました。

本件免罪事件の主任弁護士は、和田倉門法律事務所の代表パートナーである高田剛弁護士です。高田剛弁護士は、事件の弁護活動を通じて、捜査の問題点を明らかにし、無罪判決を勝ち取るとともに、国家賠償請求訴訟を提起し、第一審で勝訴しています。

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