支配人
「支配人」とは、商法上の概念であり、営業主から包括的な営業の委任を受け、店舗などの営業所(一般に「支店」クラス)で営業活動の全般を統括・管理する地位にある者を指します。民事訴訟において、「支配人」は一定の条件を満たす場合に訴訟代理人となることができます。一定の条件とは、支配人としての地位が公示(登記)されている必要があります。これは、第三者に対する外観的な権限の明確化のためであり、裁判所が訴訟代理人としての適格性を判断するためにも重要です。
支配人が訴訟代理人として行動できるのは、その営業所の業務に関する訴訟に限られます。たとえば、支配人が管理している店舗の取引に関する紛争については、その支配人が訴訟において当該営業主を代理することが可能です。しかし、営業所の業務とは無関係な本社の決定などに起因する訴訟については、支配人が訴訟代理人となることは認められません。また、営業所を統括する者であっても、商業登記がされていない者は「見なし支配人」とされます。これは、実質的に支配人と同様の職務を遂行している者が、外観上第三者に対して支配人であると認識されるような地位にある場合に該当します。つまり、営業所の責任者として業務を取り仕切っており、取引先などから支配人と見なされうるような状況にある者を「見なし支配人」と呼びます。しかしながら、見なし支配人は訴訟代理人にはなれません。民事訴訟法では、訴訟代理人となりうる支配人について、原則として商業登記によりその地位が公示されていることが前提になっているからです。
なお、支配人として訴訟代理人となるために、特別な法律上の資格(例えば弁護士資格や司法書士資格)は必要ではありません。これは、支配人が営業主から包括的な代理権限を与えられていること、かつ支配人の登記制度によりその権限が公にされていることによって、訴訟代理人としての信頼性が担保されているためです。したがって、支配人は訴訟においても、その委任の範囲内で本人の名において訴訟行為を遂行することができます。ただし、実務上は支配人が実際に訴訟代理人として口頭弁論等に出廷することは特別な業種を除いて稀であり、多くの場合は弁護士を代理人として選任することが一般的です。
以上のように、支配人は営業に関する一定範囲の訴訟について、登記されていることを前提に、法律上の資格を有しなくとも訴訟代理人となることができますが、その権限は営業所の業務に密接に関連する訴訟に限られています。
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