遺留分
遺留分とは、被相続人(亡くなった人)が遺言や生前贈与によって財産を自由に処分した場合でも、一定の相続人に保障される最低限の取り分のことを指します。この制度は、遺言による意思の尊重と、家族としての扶養や生活保障という観点を調和させるために設けられています。遺留分が認められるのは、被相続人の配偶者、子ども(直系卑属)、父母などの直系尊属に限られており、兄弟姉妹には認められていません。
遺留分と混同されやすいのが「法定相続分」です。法定相続分とは、遺言がなかった場合に、民法の定めに基づいて各相続人が相続する割合のことを意味します。たとえば、配偶者と子どもが相続人である場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが残りの2分の1を人数で等分して相続することになります。一方で遺留分は、たとえ法定相続分通りに相続できなかったとしても、最低限確保されるべき割合を示しており、その割合は通常、法定相続分の2分の1です。ただし、直系尊属のみが相続人である場合の遺留分は、法定相続分の3分の1となります。
遺留分を主張する状況としては、被相続人が遺言により全財産を特定の一人に相続させるとした場合や、生前に第三者へ多額の贈与をしていた場合などが典型的です。たとえば、被相続人が「全財産を長男に相続させる」と遺言していた場合でも、他の子どもや配偶者は、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)という法的手続きを通じて、自らの遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。この請求には期限があり、相続の開始および侵害の事実を知った時から1年以内に行わなければなりません。これを過ぎると請求権は時効により消滅します。
一方で、遺留分が認められないケースも存在します。まず、法的に遺留分が認められていない相続人としては、被相続人の兄弟姉妹が挙げられます。さらに、相続人が「相続欠格」や「廃除」といった理由により相続権を失っている場合にも、遺留分を主張することはできません。
「相続欠格」とは、法律で定められた重大な非行を行った者に対し、当然に相続権を失わせる制度です。たとえば、被相続人を殺害または殺害しようとした場合、詐欺や脅迫によって遺言を作成・変更・取り消させた場合、または遺言書を偽造・変造・破棄した場合などが該当します。これらの行為が認められると、その者は相続人としての地位自体を法律上失い、遺留分の権利も当然にありません。
これに対して「廃除」は、被相続人が生前に意思表示をして裁判所の審判を経て、特定の相続人から相続権を奪う制度です。対象となるのは主に被相続人に対して虐待や重大な侮辱をした場合、あるいは著しい非行があった場合です。廃除は相続欠格のように自動的に適用されるものではなく、被相続人の申立てに基づき、家庭裁判所の判断によって決定されます。廃除が認められた相続人も、当然に遺留分の請求はできません。
以上のように、遺留分制度は、被相続人の意思と相続人の最低限の利益との調整を図るための重要な仕組みであり、実際の相続においてしばしば争いの原因となる分野でもあります。遺言を作成する際や、相続が開始された際には、法定相続分と遺留分、そして相続欠格・廃除の制度を正しく理解し、適切に対応することが求められます。
« Back to Glossary Index