生前贈与

« Back to Glossary Index

生前贈与とは、被相続人が生きている間に、自身の財産を無償で他人に与える行為を指します。これに対し、相続は被相続人の死亡によって開始される財産の承継を意味します。生前贈与は、財産の承継を生前に自らの意思でコントロールできる手段として用いられ、特に将来の相続対策や節税目的で活用されることが多くあります。たとえば、親が子どもに毎年一定額の贈与を行うことで、死亡時に相続される財産をあらかじめ減らし、相続税の負担を軽減しようとするケースが典型です。

しかし、生前贈与は相続と密接に関係しており、単に生前に贈与したからといって、そのすべてが無条件に相続と切り離されるわけではありません。特に注意すべき点が「特別受益」と「持ち戻し(特別受益の持戻し)」の考え方です。これは、相続人のうちの一部が被相続人から生前に特別に財産を受け取っていた場合、その分を相続の際に公平に調整するという制度です。たとえば、長男だけが生前に住宅購入の援助として1,000万円を贈与されていた場合、相続財産にその1,000万円を加算して、他の相続人との間で公平に遺産分割が行われることになります。これを「持ち戻し」といい、法定相続分を計算する際に反映されます。

ただし、被相続人が「持ち戻しをしない」という意思表示をしていた場合や、2023年の民法改正によって施行された新ルールにより、相続開始前10年を超える生前贈与については原則として持ち戻しの対象から外れるなど、一定の例外も設けられています。また、婚姻期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与などについても、持ち戻しの対象から除外される特例があります。

さらに、生前贈与は税務上の問題とも深く結びついており、贈与税がかかるケースもあります。毎年110万円までは基礎控除として非課税ですが、それを超える部分については贈与税の課税対象となります。また、相続開始前3年以内に行われた贈与については、たとえ基礎控除の範囲内であっても相続財産に加算され、相続税の課税対象となるため、節税効果を見込んで贈与を計画する場合には、時期や金額に十分な注意が必要です。

このように、生前贈与は相続と切っても切り離せない関係にあり、財産を早期に承継させるための有効な手段である一方、法的・税務的な調整が必要な複雑な側面もあります。したがって、生前贈与を実行する際には、将来の相続に与える影響を慎重に見極めながら、制度を正しく理解したうえで活用することが重要です。

« Back to Glossary Index