遺言書
遺言書とは、本人が死亡した後に自らの財産をどのように処分するか、あるいは特定の人に権利や義務を残すかなどを記した法的文書であり、被相続人の最終意思を尊重し実現するための重要な手段です。遺言書には主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という三つの方式があり、それぞれに作成方法や法的効力の面で特徴があります。
もっとも簡易な形式である自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・署名を自筆で書き押印することが要件となっており、費用をかけずに作成できる反面、書式の不備や要件の欠如によって無効になるリスクが高いという問題点があります。2019年の法改正により、財産目録の部分についてはパソコン作成や通帳のコピー添付が認められるようになったものの、それでもなお形式的な要件を満たさない遺言が見受けられるのが現状です。
一方、公正証書遺言は、公証人の関与のもとで作成されるため、形式不備のリスクが少なく、原本が公証役場に保管されることから偽造や紛失の恐れもありません。また、遺言の内容が明確に記録されることから、死後の相続人間の争いを回避しやすいという利点もあります。ただし、公証人への手数料が発生し、作成には証人2人の立会いも必要なため、手間や費用の面で自筆証書遺言より負担が大きいという側面があります。
秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま遺言の存在だけを公証人に証明してもらう形式ですが、現在ではほとんど利用されておらず、実務上の重要性は高くありません。
遺言書の法的効力は、遺言者の死亡によって初めて発生し、相続においては遺言内容が法定相続に優先されるため、財産の配分や特定の人への遺贈、認知なども遺言によって可能です。ただし、遺留分という制度により、一定の法定相続人には最低限の取り分が保障されており、これを侵害する遺言内容については、相続人が「遺留分侵害額請求権」を行使することで是正が図られることになります。
こうした制度は、遺言による意思の尊重と相続人の公平な取り分確保との調和を目指していますが、実際には遺言書の内容をめぐって相続人間に紛争が生じることも少なくありません。特に、遺言の内容が曖昧であったり、偏りが大きかったりする場合には、感情的な対立が生まれやすく、裁判にまで発展するケースもあります。そのため、遺言書を作成する際には、法的要件を確実に満たしつつ、できる限り相続人の理解や納得を得られるよう配慮することが望まれます。弁護士や専門家の助言を受けながら、将来のトラブルを防ぐための慎重な準備が、遺言書作成には求められると言えるでしょう。
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