専門的で難解な医療過誤と闘う弁護士の役割と重要性
目次
医療過誤の基本的問題と理解
医療事故と医療過誤の違い

医療事故と医療過誤は似たように思われがちですが、実は異なる概念です。厚生労働省の審議会で、「医療事故とは、医療に関わる場所で医療の全過程において発生する人身事故一切を包含し、医療従事者が被害者である場合や廊下で転倒した場合なども含む。一方、医療過誤は、医療事故の発生の原因に、医療機関・医療従事者に過失があるものをいう。」と定義しています。医療事故は、「アクシデント」と表現されることがあります。なお、日常診療の場で、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは、誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったものを「インシデント」もしくは「ヒヤリ・ハット」とも言います。なお、「日常診療の場」には薬剤関係も含まれます。
公益財団法人日本医療機能評価機構の報告によれば、2022年1月から12月の間に、全国686の医療機関から合計1,018,480件のヒヤリ・ハット事例が報告されていますので、全国の医療機関に換算すれば数百万から数千万件に匹敵するヒヤリハットが発生しているものと思われます。また、令和4年度の千葉県立病院における医療の提供過程で発生したヒヤリ・ハット事例は、3a(簡単な処置)以下は10,906件で3b(濃厚な処置)以上のアクシデントは83件と報告されています。これだけのヒヤリハットが発生していれば相当数の重大な医療事故が発生していることは想像に難くありません。そして、それらの医療事故の中には隠蔽されている事故も相当数あるであろうことが推測されます。
以上の通り、治療を受けたにもかかわらず状態が悪化した場合は医療事故として分類されますが、その悪化が医師や医療スタッフの対応ミスによるものであれば医療過誤と認定される可能性があります。この違いを理解することで、損害賠償請求や法的な手続きがより適切に進みます。
医療過誤と認められない場合
医師の治療行為は 「手段債務(努力義務)」 及び「経過債務」と考えられており、 患者の病気を必ず完治させることが目的ではなく、適切な医療行為を尽くすことが義務 となります。これは、治療の結果必ず治癒するとは限らないことを意味します。手段債務(努力義務)とは、医師及び医療機関は対価を得て最善の治療を尽くす義務を負いますが、治癒という結果を保証するものではありません。例えば、癌治療や難病の治療では、完治が難しい場合もあり、 適切な診断・治療を行うことが医師の責任 となります。医療水準に基づいた適切な対応をしていれば、仮に患者が完治しなくても、医師の責任は問われません。
また、経過債務は、医療契約の中で、医師が 適切な治療のプロセス(経過)を行い管理する義務 を負うものです。例えば、手術後のフォローアップやリハビリの指導など、治療の経過を適切に管理することが求められます。また、適切な治療を継続することで病気の進行を遅らせたり治癒に近づける医療行為を行うことです。

但し、例外的に結果債務となる場合もあります。美容整形手術や特定の歯科治療 など、契約上「特定の結果」を約束する場合は 結果債務 となることがあります。例えば、「二重まぶたの手術をして、二重にならなかった」という場合、結果が約束されているため、債務不履行の責任を問われる可能性があります。
以上のことから、美容整形手術や歯科治療の場合の例外を除いて医療行為が手段債務や経過債務としての義務に留まる可能性から、医療事故や医療過誤の立証はハードルが高くなり医療過誤として認められない可能性があります。
医療過誤の主な種類とケーススタディ
医療過誤にはいくつかの種類がありますが、以下が主な例です。
- 診断ミス: 病気の見落としや誤診による治療機会の喪失。
- 処置ミス: 手術での器具の取り扱いや手順のミスにより後遺症が発生するケース。
- 薬剤投与エラー: 患者に間違った薬剤や量を投与したことによる健康被害。
例えば、脳血管バイパス手術中に医師が誤った手法を取ったことで脳梗塞が発生し、患者に重篤な後遺症を残ったという場合等が考えられます。このような事故が発生した場合には、発生原因を専門的に調査し、医療過誤対応弁護士を交えることで適切な損害賠償請求が可能となります。
医療過誤が発生する主な原因

医療過誤が発生する背後には、いくつかの原因が存在します。
- 医師の技術的なミス: 手術や診断時の判断ミス。
- 医療機関の体制不足: 人手不足や過密スケジュールが原因で対応が不十分である場合。
- コミュニケーションの欠如: 医師、看護師、患者との情報共有が不完全であること。
こうした背景から、医療過誤は単なる偶然のミスではなく、根本的なシステムや人間の判断が関与している場合があります。この問題への対処には、医療過誤立証の問題点を克服するために弁護士や医療専門家と連携する必要があります。
医療倫理と責任のバランス
医療過誤において重要なのが、医療倫理と責任のバランスをどのように取るかという点です。医療従事者は患者の命を守るという強い職業倫理のもと仕事をしていますが、それでもミスが発生する場合があります。この際、法的責任を追及する一方で、医療従事者の負担や萎縮的な医療行為を防ぐことも考慮されなければなりません。
さらに、患者と医療機関の間で信頼関係を築き直すことが重要です。被害を受けた患者も、医療機関側の率直な説明や対話を求めることで、裁判に頼らずとも問題を解決できる可能性があります。このような取り組みが、医療事故や医療過誤を未然に防ぐ一助となるでしょう。