退職代行業界の課題—「モームリ」をめぐる報道から見る法のグレーゾーン」
目次
退職代行サービスとは何か?
サービスの概要と現状

退職代行サービスとは、利用者に代わって勤務先へ退職の意思を伝えるサービスを指します。利用者が自ら直接上司や会社と連絡をすることに抵抗を感じる場合や、心理的負担を軽減するために利用されるケースが増えています。特に若者の間で需要が高く、就職情報会社マイナビの調査によると、2023年6月以降に転職した人のうち16.6%が退職代行サービスを利用していました。この市場は年々拡大しており、一部の企業では累計で数万件以上の依頼を受け付けたと公表しています。
急成長する背景とニーズ
退職代行サービスが急成長している背景には、現代の働き方や社会的状況が影響しています。ブラック企業と呼ばれる職場環境や、職場の人間関係によるストレスが深刻化している中、自らの職場への退職意思を伝えることに困難を感じる人が増えています。加えて、若者を中心とした「仕事は合わなければ辞める」という価値観の浸透も、退職代行への需要を押し上げています。また、コストが比較的低額で利用しやすいことも人気を支える理由の一つです。例えば、「モームリ」を提供しているアルバトロス社では、正社員向け2万2000円、パート・アルバイト向け1万2000円という料金設定で、多くの利用者を獲得しています。
利用者のメリットとリスク
退職代行サービスの主なメリットは、利用者が直接勤務先とやり取りしなくてもいい点です。これにより、ストレスや人間関係の摩擦を回避することができます。また、退職意思を伝えた後のフォローも行う場合が多く、スムーズな退職が可能です。しかし一方で、リスクも存在します。特に非弁行為が関与している可能性がある場合、依頼者が法的なトラブルに巻き込まれるリスクがあります。非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が法的業務を行うことを指し、弁護士法により禁止されています。退職代行業界では、この「非弁行為か合法か」の境界線が問題となる事例が散見されています。
モームリ事件の概要
警視庁の捜索の報道内容
2025年10月22日、複数の報道機関によると、退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス社が、弁護士法違反(非弁活動)の疑いで警視庁の捜索を受けたとされています。本社所在地である東京都品川区のオフィスおよび都内の法律事務所2カ所が対象だったとの報道もあり、非弁行為や非弁提携に関する証拠収集が行われた模様です。この捜査の背景には、同社が弁護士資格を持たない状態で法律事務に関わる業務を行っていたとの疑いがあったためです。
非弁行為容疑とは
アルバトロス社にかけられている非弁行為容疑とは、弁護士ではない者が法律に関連する業務、つまり「非弁行為」を行ったとされるものです。この行為は弁護士法第72条で明確に禁止されており、特に顧客の法的問題に介入したり、弁護士に紹介して対価を得る行為は違法とされています。報道では、同社が退職希望者を弁護士に紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いがあると伝えられています。こうした行為は、弁護士資格を有しない者が法律事務を取り扱ったり、有償で弁護士を紹介することを禁じた弁護士法第27条第1項及び第72条に抵触する可能性があるとして捜査対象となったとみられています。
事件が業界に与える影響
今回のモームリに関する問題は、退職代行業界全体に大きな影響を与えるものと考えられます。まず、法的な問題点が注目されることで業界全体が「非弁行為」というリスクと向き合う必要に迫られます。また、警視庁が調査を実施した事実自体が、利用者に不安感を広げる結果となり、サービスへの信頼低下を引き起こしかねません。一方で、この事件は業界の適正化への第一歩とも言えます。現状では弁護士法72条の規定に抵触しない形でサービスを提供するための基準や仕組みが曖昧であり、今回のような捜査を契機に規制の整備や業界標準化が求められています。そのため、この事件は退職代行の実態を再評価し、サービスの透明性を高める契機となる可能性があると言えます。
非弁行為とは?弁護士法の規定
非弁行為の定義と禁止理由
非弁行為とは、弁護士や弁護士法人でない者が報酬を得る目的で法律事務を行うことを指します。日本の弁護士法第72条において、弁護士資格がない者が法律業務を行うことは厳しく禁じられており、もしこれが違反された場合は処罰の対象となります。
非弁行為が禁止される理由には、利用者保護と法制度の信頼性維持が挙げられます。弁護士法は、専門知識を持ち、厳しい倫理観を備えた弁護士だけが法律事務を行うべきだとしています。これにより、不適切な対応や法的トラブルによる利用者の不利益を防ぐことが目的です。
過去の非弁行為を巡る注目事件
過去にも非弁行為に関連する問題は多く報じられています。例えば、法律知識を持たない者が報酬を得て債務整理や交通事故などの示談交渉を行い、依頼者に大きな損害を与えた事件がありました。これらの事件では、専門的判断を誤った結果として、依頼者が適切な法的救済を受けられなくなったケースも存在したと言われています。
退職代行業界においても、非弁行為が問題視されることがあります。特に、モームリ事件では「アルバトロス」社が弁護士資格を持たないながらも顧客の勤務先との交渉を行い、さらにその業務を提携弁護士にあっせんし報酬を得ていた可能性が捜査されています。このようなケースでは、弁護士法に違反している可能性があると指摘されています。
合法と違法の境界線
退職代行サービスの合法性を判断する上で、業務が弁護士法第72条に抵触するかが重要なポイントとなります。たとえば、退職代行業者が顧客に代わって単に退職の意思を伝えるだけであれば違法ではないケースが一般的です。しかし、代行業者が直接法律事務に該当する交渉を行ったり、顧客と雇用主の間で契約内容を変更するような活動に手を伸ばした場合、非弁行為に該当する可能性が高くなります。
モームリの問題では、退職代行業者が報酬を得ながら提携弁護士へ顧客をあっせんしたとされていますが、この行為が非弁提携に該当するおそれがあります。退職代行サービスの実態にはグレーゾーンが多く存在し、利用者を守るためには明確な法規制やガイドラインの整備が求められています。
